マスコミ対応
SISU News Center, Office of Communications and Public Affairs
Tel : +86 (21) 3537 2378
Email : news@shisu.edu.cn
Address :550 Dalian Road (W), Shanghai 200083, China
関連情報
ひとり親家庭の貧困率が高いのはなぜ? ~中日のシングルマザーへの支援について~
07 December 2025 | By 张颖 | SISU

近年、離婚率の上昇などを背景として、中日両国における母子世帯(シングルマザー世帯)の数は増加傾向にある。従来から家庭内で主たるケア役割を担ってきた女性が、シングルマザーとして就労と育児を両立させることは容易ではなく、多くの場合、経済的困窮に陥りやすいことが深刻な社会問題となっている。本文では、制度が異なる中日両国における母子世帯の貧困問題を「制度的貧困」(中国)と「制度内貧困」(日本)という概念を用いて比較し、それぞれの実態と社会的要因を考察する。これを通じて、各国の発展段階に適合した効果的な支援システムの構築に向けた提言を行うことを目的としている。
1. 共通する貧困リスクの構造:性別役割分工と就労システムの限界
母子世帯、特にシングルマザーの貧困率の高さは、中日両国が共有する深刻な社会問題である。この問題の根源には、両国に共通する社会的構造、すなわち 「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という伝統的性別役割分工意識が横たわっている。この意識は、女性のキャリア形成と経済的自立を、歴史的に阻んできた。そのような環境の下で、離婚や死別により、家計と育児の責任を自ら負わなければならないシングルマザーは、育児との両立がますます難しくなり、従来の就労体系の中で、たちまち経済的な困窮に追い込まれるのである。
特に就労面では、非正規雇用に就かざるを得ないケースが多く、これが低所得の主要因となっている。非正規雇用を選択せざるを得ない理由としては、①子育ての時間的制約から自ら正社員を希望しない場合、②正社員としての就業経験が少ない、または育児によるブランクがあるために正規雇用の求人条件を満たせず、やむを得ず非正規で就業する場合などが挙げられる。さらに、非正規の場合、能力開発やスキルアップの機会が正規雇用者に比べ少ないことが多く、長年働いたとしても、正社員に転換するのは容易ではないという厳しい現実がある。育児短時間勤務制度など、両立支援のための制度整備が進んでいるものの、これらの制度が入社直後に適用されることは少なく、子育て中の女性にとって正社員への転職は相変わらず高いハードルとなっている。この課題は依然として解決されていないのが現状である。
日本の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯になる前に「正規の職員・従業員」として就業している割合は、35.2%に留まる。中国においても、その数的規模は看過できない。中国民政部及び学術機関の統計(2020年)によれば、単親家庭は約1940万~2000万世帯にのぼり、全世帯の約7%を占めている。これには未婚出産などの事例が含まれておらず、実数はさらに多いと推測される。これらの家庭のうち、圧倒的多数が母子世帯である。離婚事例では親権の70~83%が母親に帰属し、全国の単親世帯に占める母子世帯の割合は70%を超えている(2022年データ)。さらに、配偶者死亡に起因する世帯では女性が担い手となるケースが特に多く、若年層寡婦は約260万人にのぼる。未婚出産を選んだ母親も数多く存在し、社会的な圧力や経済的な制約のため、単独で育児を行う傾向が強い。
一方で、正社員の中途採用では、即戦力が求められることが多い。そのため、正社員としての勤務にブランクがある場合、再就職の難易度が上がりがちである。それに、子育て中の場合は、残業や出張に制約があるため、さらに不利な状況に置かれる。その結果、やむを得ず非正規雇用で就業しているケースも多いと思われる。
また、非正規雇用においては、賃金が低いだけでなく、能力開発の機会も少なく、貧困からの脱却を困難にする悪循環を引き起こしている。生活のために長時間働いたり、複数の仕事をこなしたりすることで、育児時間の不足や母親自身の健康悪化といった新たなリスクが生じている。
ここ数年、中日両国ともシングルマザーの自立を目的として、経済的支援を中心に、就労、住居、育児、健康などを結びついた社会支援政策を積極的に推進している。しかし、このようなシングルマザーへの支援が、実際にどれほどシングルマザーの仕事と生活を安定させ、貧困から脱却させることができるのか。
2. 位相を異にする課題:「制度的貧困」中国と「制度内貧困」日本
以下の表は、中日両国の母子世帯をとりまく環境を4つの観点から比較したものである。
|
比較項目 |
中国 |
日本 |
核心的な相違点 |
|
経済支援と就労 |
公的支援は未発達で地域格差が大きい。母親は低賃金・不安定労働に追い込まれる。「制度的貧困」 が特徴 |
児童扶養手当など制度的骨格は存在するが、母親の非正規雇用と低所得が慢性化。「制度内貧困」 が特徴 |
制度的成熟度と実質的な経済保障のギャップの大きさ |
|
社会的スティグマ |
「健全な家庭」規範からの逸脱としての「顕在的なレッテル貼り」 が強く、子どもへの直接的な偏見・いじめに発展しやすい |
「可哀想」と「自己責任」の混在。母子への直接的差別より、「見えない排除」 と「疎外感」 が問題 |
スティグマの顕在性と排除の形態(直接的 vs. 間接的) |
|
法制度と支援体系 |
全国統一法は未整備。支援はNGOや地方政府の裁量に依存。「システムそのものの不在」 が最大の課題 |
母子家庭福祉法など法的基盤が明確。自治体に相談窓口あり。「システムはあるが、使いこなせない・届かない」 が課題 |
法整備の度合いと支援アクセスの均等性 |
|
心理的支援の実態 |
専門職が絶対的に不足。心理的支援は贅沢品。スティグマがアクセスをさらに阻む。「未開の地」 的状況 |
スクールカウンセラー等のインフラはあるが、人員・専門性不足。母親のメンタルヘルス支援は「隙間」 領域 |
専門的支援の普及度とメンタルヘルスケアへの社会意識 |
この図表を分析した結果、中国は「制度的基盤自体の未整備」という問題に直面している一方、日本は「整備された制度と実生活との間のギャップ」という問題に直面しており、両者は位相の異なる課題構造を呈している。中国のシングルマザーは、支援の「入り口」自体にアクセスできないという根本的な問題を抱えている。一方、日本のシングルマザーは「入り口」は存在するものの、その先に待ち受ける低賃金や不安定雇用といった「落とし穴」にはまりやすく、異なる次元の困難に晒されているのである。
このような制度的および社会的環境の相違は、母子世帯の生活実態にも現れている。共通点としては、貧困リスクが高いこと、仕事と子育てを両立するのが困難であること、貧困の連鎖や社会的排除といった課題を抱えていることである。相違点は、以下の通りである。中国では、学歴格差によって雇用機会がより厳しく制限され、社会保障制度が未整備なため身体的健康問題のリスクが高く、社会関係において顕著な孤立状態に陥りやすい。一方、日本では、これらの問題は緩和されているが、低賃金や不安定雇用という「落とし穴」に容易に陥りやすいという質的な課題が立ちはだかっている。
同様に、支援システムにも共通点と相違点が存在する。共通する方向性としては、自立促進を目指す「伴走型」経済的支援、母子双方のニーズを組み合わせた貧困連鎖の防止、そして予防システムの構築が挙げられる。異なる支援システムにおいて、中国では、シングルマザーが明確な支援対象として認識されることが困難であり、支援の専門性にも著しい格差が見られている。一方、日本では、企業やNPOなど多様な主体の役割が比較的重視されており、制度的な基盤は備わっているものの、その「質」と「実効性」が問われる状況にある。
最後に、日本の経験から中国の支援システム構築に対して得られる啓示は、以下の四点にまとめることができる。
第一は、専門性に基づく支援基盤の整備である。社会福祉士等の専門人材を育成・配置し、支援サービスの質的向上を図る。
第二は、地域社会を基盤としたネットワークの構築である。地域支援事業を推進し、支援者と当事者が情報を交換し、お互いを見守り合うコミュニティの仲間同士と力を合わせる。
第三は、企業の社会的責任(CSR)の積極的活用である。企業に対し、シングルマザーへの理解を深め、柔軟な働き方の機会を提供するよう促す。
第四は、エンパワメントを中核に据えた支援の実践である。これは最も重要な点であり、経済的支援に加えて、ピアサポートグループの設置やストレングス視点に立ったカウンセリングを提供し、当事者自身がレジリエンスを高め、困難を乗り越える力を育むことを目指す。
以上のように、中日の母子世帯の貧困は、その表れ方は「制度的貧困」と「制度内貧困」のように異なるが、その根源には共通して、固定的な性別役割分工と、それに適応していない現行の就労システムという社会構造的問題が横たわっている。中国の「制度的貧困」と日本の「制度内貧困」という対照的な課題は、相互に映し鏡となる貴重な知見を提供している。したがって、単なる経済的給付ではなく、働き方の改革、固定的な性別役割分工意識の是正、そして母子のエンパワメントを中核に据えた、社会構造そのものへの働きかけが、両国にとって不可欠な解決策となるであろう。
マスコミ対応
SISU News Center, Office of Communications and Public Affairs
Tel : +86 (21) 3537 2378
Email : news@shisu.edu.cn
Address :550 Dalian Road (W), Shanghai 200083, China
