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修善寺小記


28 September 2025 | By 陈艺天 | SISU

伊豆と聞けば、すぐに川端康成の名作『伊豆の踊子』が脳裏に浮かぶ。友人とともに温泉旅館の趣を味わいたくて、二日間だけ修善寺を訪れることにした。心の気分転換も兼ねての旅である。

朝早く東京を発ち、家から中央線に揺られ、さらに踊り子号へと乗り継ぎ、着いた頃にはすでに正午を過ぎていた。修善寺の名物といえば、山葵と鯛。宿から数歩の小さな店で、山葵と魚肉を挟んだ「修善寺バーガー」を食した。

和の情緒あふれる地でハンバーガーを食うことに、わずかに違和感を覚えたが、それでも実に美味しかった。私は普段、山葵を好んで口にする人ではない。食卓に山葵の瓶が置かれていても、決して手を伸ばさないほどだ。だが今回は違った。鼻をかすめる辛味と、柔らかな魚肉のパティが見事に調和し、思わず魅了された。もしかすると、このバーガーをもう一度食べるためだけに再び修善寺を訪れるかもしれない――そんな気さえした。

宿のチェックインは午後三時なので、食後、寺を散策することにした。山門には「立春大吉」と墨書された白地の札が掛けられている。カメラで撮ると一層鮮やかに映ったが、暦はすでに立秋を一月過ぎているのに、なぜ文字が掛け替えられていないのかと、不思議に思った。

境内には大きな鐘があり、その前には長い石のベンチが並んでいた。その一つに、小さな猫の置物が鎮座しているのに気づいた。目を凝らさなければ見落としてしまうほどの小ささである。だがその猫はあまりにも静かに、まるで寺を守る神の化身のように座していた。それが修善寺での最も鮮烈な記憶となった。他はどこにでもある日本の寺と同じく、絵馬掛けや御守りを売る場所があった。私はしばらく御守りを眺めていたが、現金を持ち合わせていなかったため、購入も、賽銭箱への祈願も諦めざるを得なかった。

修善寺には名高い温泉宿が点在する。文学を学ぶ者として、私はあえて夏目漱石が療養したという「菊屋」を選んだ。数百年の歴史を誇る老舗旅館は、門をくぐった瞬間に、時を超え百年前へと誘うかのようであった。東京に来てから、指導教員はいつも「研究は日本でなくてもできる。

東京にいるからこそ、日本の匂いを存分に感じてほしい」と言う。その言葉に私は深くうなずく。修士課程の二年間、私は書物の中で明治や大正を読み解いてきたが、この時ばかりは、心も体もほんの少し、その時代へと近づいたような気がして、胸が高鳴った。

夕刻、雨が降り出した。赤茶の回廊から外を望むと、小さな池に雨が波紋を描き、金魚が揺らめく水面を漂う。その光景が私の心に点々と痕跡を残す。池の中央には一本の木が立ち、雨が枝葉を叩く。すべてが青緑の薄絹に包まれたようだった。

――菊屋は、緑の宿だった。

その緑はあまりに澄み切っていて、ガラス越しに常に自分を取り巻いているように感じられる。ふと村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を思い出す。ならば、この菊屋の緑は「限りなく透明に近いミドリ」と呼ぶべきかもしれない。

雨は私の身体を洗い流すようで、心までも透明にしていった。その透明な心持ちは、翌日の帰路にも続いていた。行きとは違い、眠ることなく窓外を眺め続けた。車両のドアが開き、下校途中の女子生徒たちが隣に座り、賑やかにおしゃべりをしては降りていく。席はまた空になり、私の目にはただ田畑と家並みが続いていた。

伊豆を離れてから、ふと気づいた。修善寺の石のベンチに座していた猫は、ひょっとすると夏目漱石の『吾輩は猫である』に着想を得たものだったのではないかと。

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