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グッズブーム
10 April 2025 | By 武彦博 | SISU
先日、昼ご飯を食べに食堂へ向かう途中、ひとつ面白いことがありました。いつものように二階へ向かうためエスカレーターに乗っていると、ふと上を見上げたら、目に飛び込んできたのはオシャレで可愛いキーホルダー。普段ならキーホルダーひとつで別に気に止めるほどのものでもないけれど、その時、私の上に立つ人のリュックにぶら下がっているゴム製の細長いキーホルダーの表面に印刷されたのは、確かに見たことのあるアニメの中のキャラクター（LoveLive! Superstar!! 唐 可可）の姿でした。それは一大発見でした。いつも通りの日にいつも通りに食堂に来て、いつも通りの光景が目に映る、が、そのキーホルダーが突如目に入った瞬間、私は何だか周りの世界がちょっぴり鮮明に変わったような思いをしてしまいました。本来は別次元に存在するはずのアニメキャラクターが、現実的な形をとって、まるでこの異次元の世界に溶け込むような調和を取り、しかもそのもとの次元だからこその美しさと可愛らしさを持っているまま、私の目の前に現れたということです。それはやはり、いつものこの世界では思いもよらない鮮やかな、しかも異次元的なサプライズが降りかかったような思いでした。
そういえばここ最近上海で、そうみたいにアニメやらゲームやらのアニメグッズをバッグやスマホに飾るのは、実にブームといえるほど大人気ではないでしょうか。グッズの専門店が次々に出て、SNSでもおすすめの店のまとめとか数え切れないほど多くて、南京路というところまで、グッズ販売のためにビル一棟ができています。そのビルを実際回ってみると、ゲームなら「原神」、「アークナイツ」、「リバース1999」などの中国産がほとんど、アニメなら「ボッチザロック」や「ラブライブ」、「バンドリ」、「鬼滅の刃」などやはり日本側の作品が圧倒的でした。ビルではコスプレイヤーの姿も時々見かけられ、いつ来ても賑やかな場所です。ここに来るみんな、だいたい缶バッジ一つをどっかに付けるのが普通で、時おりマニアも現れますが、何十枚も身体に飾った上でさらにアクリル板やら色紙やらキャラのぬいぐるみ、フィギュアなども派手に展示するが、まるで何かの宗教儀礼でも行っているかのようでそれもそれで面白い光景です。
ということで、食堂で見かけたあのキーホルダーは、改めて私に「上海はオタクが多い」という事実を再認識させました。ある本で読んだことがありますが、日常生活から距離を置いてはじめて、人は完璧な理想を描くことができる。だから人々は現実から離れた異次元という朦朧たる彼岸で起こる物語の世界に憧れを抱き、自らの理想をそこに投影するということです。しかしこうなると理想はとうてい理想のままで儚い夢でしかなく、現実世界にはその実在のかけらもありません。だが、現にこんな営みがあります。それら異次元に花咲く美しい夢のシルエットを切り取って、彼岸にしか存在しない純潔な理想に実在の形を与えて人々の目の前に現す。そうすることで、本来ならば遠くから見るだけで、触れることのできないはずの儚い夢は、手に入れて現実世界に飾ることでようやく叶えられるようになる。そしてグッズ販売とは、まさにそんな人々の願いを形にする営みと言えるでしょう。
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